科学水準
空気より軽い航空機械である飛行船(母船)や、飛行船とロータークラフト、翼面航空機の複合機(俗称「竹とんぼ」)戦闘機のデザインを見て、そのまま考えれば、我々の星系で言う、ツェペリン形式飛行船の全盛期(A.D.1914~1937)を想いだす。
そもそも我々の星系で「飛行船」が廃れたのは、ガス爆発・静電気爆発の危険以上に、大量輸送・高速輸送・接続性(海沿いやへき地でなく、都市部に近い場所に空港を建設出来る)、さらには危険な水素ガスの代替品である期待の不活性ガス(He)の高価さから来る経済性の問題を解決出来ないことの、要求の方が高かったからであり。「ヒンデンブルク号」の事故はそのきっかけに過ぎない。
翼面航空機(我々の世界の概念で言う重航空機)がプロペラ機・複葉機の範疇ですら画面に登場しないのは、我々の星系との文化的相違も、もちろん考えられるが、同時に大気組成・二重太陽等の天体的影響、重力やその他の自然要素(エーテル・トラパー等の我々の星系に無い未知の物質)の影響で翼面航空機が使用出来ないか、使い難い状況にあることも充分考えられる。(2枚の安定版には揚力効果や翼面効果が無いことはないが、補助的なものであって飛行制御に積極的に利用出来るものではない)内燃機関もまだまだ効率が悪いようだが、これは、人類の全てが女性(少女)として産まれ、17歳で性の再割り当てを行う生物学的事情で、肉体的体力を現場サイドに要求される、重工業の工場などの規模を、我々の星系の人類ほど巨大に発達出来なかったのではないかとも推測されるのである。それゆえ、重工業に発展の緩やかさに較べて、現場において開発製造に体力をそれほど必要としない、軽工業や電子科学工業に力が割かれたのではないだろうか。
2話において、アルゲントゥム礁国の遠距離偵察型の浮力型複合航空機(俗称:「竹トンボ」)が、明らかに赤外線カメラを搭載している画像が発見されたことから、少なくとも、我らが星系では1920年代後半にイギリスのベアード(今では実用性の欠如から廃れてしまったが、機械式走査機械による撮像管と、機械式実験型テレビジョンの発明者でもある)が発明したこの装置が大空陸随一(シムラークルム宮國除く)のアルゲントゥムで、軍用機とは言え実用化されているのは興味深い。
民生に関する技術がどの程度一般に波及しているのかの資料は無いが、写真製版・電子技術は少なくともこの水準にはあるようだ。以上の状況を総合すれば、大空陸全般の(先進国の)科学水準は我々の星系の1920年代~1930年代初頭の水準があると思料される。
大空陸全般の上記の事情を踏まえて、テンプスパティウムの威光を以て、巫女制度を含め、高度な宗教國家を形成し、かつ山脈や海によって他の国々と隔てられ、物理的に鎖國と同じ状態にあるシムラークルム宮國においては、科学は独自の発達を遂げたと推察できる。
ヘリカル・モートリスのオリジナルがなぜ、宮國でのみ発掘されるのかは謎だが、いずれにせよ、当初はこれのオリジナルの解析が先行したことは想像できる。テンプスパティム神への崇拝のため、徹底的な分解調査は行われておらず、作動原理も概念的なことしか判っていないが、2話で機関車にヘリカル・モートリスが使用されていたり、シミレ・シムーンの機関が、オリジナルのヘリカル・モートリスの劣化コピーであったりと、少なくとも複製を作成出来るということは、高度な技術解析力を有していると推測できる。同時に、古代語や古代文字を解読出来る優秀な文系学者の存在も見逃せない。
その一方で、我々の星系の産業革命以後の基準公差や、統一製作基準・誤差を使っての大量生産の技術は、上記宗教的制約や彼らの文化的な嗜好・見解の相違から実現できておらず、またこの技術を宮國が秘密にしたいという思惑もあって、シムーンや、シミレ・シムーンは、寺院近くの限られた生産工場で手工業に近い状態で生産されるようである。
1話で、アルゲントゥム礁国の敵機を探知して迎撃にシムーンを発進させた描写から見て、どう考えても我々の早期警戒レーダーに匹敵する方法で、敵機を探知したとしか考えられない。これは、推定するにシムーンの装備する翠球(グリーン・エメラルド)が何らかの捜索機能や、軌跡の表示機能を持っていると、推定するほかはない。
総じて我々の星系より優れた技術を持っているが、発掘したヘリカル・モーターによって科学が発達した面もあり、独自の宗教文化もあって、総合的な科学力を判断することは出来ない。しかし、オーバーテクノロジーの発掘により、大空陸の一般的な水準を遥かに越える科学技術と、文化を持つことは確かである。
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